千年陶画「大きな波と白い馬」

とてもうれしいこと、すてきなことが起こると、体にその喜びが満たされて、完璧すぎてリアクションが取れなくなる。それは、すばらしい本を読んだときに何も言えなくなるのに似ている。掌の上で転がして、心ゆくまで眺め、匂い嗅ぎ、甘噛みして最後にゆっくし咀嚼して飲み込み、余韻を楽しみたいと思ってしまう。この喜びを独り占めしたいと思う。

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何か人にしてもらったとき、即座に「ありがとう」というのはマナーだ。すばらしい本を書いた著者やすてきな作品をつくったアーティストは、発表して即座にインスタやFacebook、twitterで反応があったらうれしいだろうし、情報が拡散されるから喜ぶだろう。だけど、それができないほどうれしいこと、幸せを感じることは、ある。

2ヶ月くらい前、松尾たいこさんの千年陶画「大きな波と白い馬」が届いた。この作品は、以前に松尾さんの福井の工房で製作の様子を取材したときに一目惚れしたもの。購入できるようになるのをじっと待ち、5月の個展のときに限定100枚という、この陶画を予約した。

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そして待つこと数ヶ月。私だけの陶画は家に飾ったらもっとすてきで、うれしくてたまらず、こんなにも長い間、どこにも書けなかった。松尾さんにもご連絡できなかったくらいだ。毎朝見る。頭の中で白い馬が波とともに走り出す。常に新しいことを勉強し、前進し続ける松尾たいこさんの姿を思う。

白い馬と波は海神ポセイドンのイメージだ。子どもの頃にどこかでみた、ウォルター・クレインの「ネプチューンの馬」の影響だと思う。(ポセイドンはギリシャ神話の海神。ネプチューン=ネプトゥヌスはローマ神話の海神。同一視して語られることが多く、ネプチューンの神話のほとんどがポセイドンのものらしい。)海に行って白波がこちらに向かって走ってくるのを見ると、馬の駆け足に似ているなと思う。

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Walter Crane 001” by ウォルター・クレイン – The Yorck Project: 10.000 Meisterwerke der Malerei. DVD-ROM, 2002. ISBN 3936122202. Distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH.. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

松尾たいこさんは30代になってからイラストレーターとしてデビューし、今もなお、常に楽しみながら挑戦を続けている方。松尾さんの挑戦を教えてもらうと、私も楽しみながら学び続け、挑戦したいと心底思う。そんな松尾さんのこの作品は、ポセイドンのイメージも相まって、私にとってお守り的な存在になっている。

「千年陶画」は陶板に絵付けをして焼いた作品だ。作品は福井の海と風を感じる工房で、丁寧に作られている。届くまで心待ちにし、届いてからじっくり喜びを味わい、記憶を引っ張り出して解釈して楽しんでいる。そして千年陶画は、割らない限り、ずっと飾れる。豊かな時間が流れる作品だ。万が一割ってしまったとしても、金継ぎして飾るつもりだ。

<参照>
千年陶画について詳しい情報:千年陶画Facebookページ

陶画についている、佐々木俊尚さんの書いたストーリー:100枚限定「陶画」夫が書いた物語その4:大きな波と白い馬(松尾たいこさんブログ)

千年陶画の製作の様子を取材した記事:今、「田舎暮らし」がホットでクール。第一線で活躍するイラストレーターの福井でのプロジェクトがスタイリッシュ!(Pouch)

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