芸術の効果ーーフラメンコ曽根崎心中を見て

4月の初めにすごいものを観てしまった。「フラメンコ曽根崎心中」の公演だ。

実は4月初めからいろんなことがありすぎて、号泣したり友達に相談しまくったり、いろんな調べごとをしたり、相談に出かけたり、資料を作ったりと身辺騒がしかったんだけど、少し落ち着いてきたから書いておく。そういや、「フラメンコ曽根崎心中」を見に行った日も大変だったんだ。花粉症のふりをしてたけれど、泣きながら見に行って講演で心を奪われて泣く、といった状態。

近松門左衛門の「曾根崎心中」は、文楽や歌舞伎で有名な演目。それをフラメンコでやるとは、どういうものだろう。数年前に「フラメンコ曽根崎心中」というものの存在を知った時には違和感を感じた。しかし、何回かフラメンコのショーを拝見するうちに「あれ? フラメンコってけっこう演歌っぽいというか、『情』を大切にしているんだな。日本っぽい」と思うようになった。そういや、アンダルシア地方出身のスペイン人の知り合いは演歌が大好きだった。フラメンコと曾根崎心中は、トマトと味噌が合うように(合うんですよ!)しっくりくるのかもしれない。そう思い始めた。

そんななか見に行った「フラメンコ曽根崎心中」。本当に、ずばらしかった。

項目立てのレベル感がばらっばらだけど、もう思いついたままに書いちゃえ!

■すべてにおいて絶妙のバランス

講演は和太鼓の力強い音からスタート。真っ暗な舞台に一筋の光が和太鼓と鼓手に当たる。太鼓の音がおなかの底に響いて、今までいた世界から、一気に作品世界に引き込まれた。正直言うと「フラメンコや曾根崎心中どころじゃない」というような心理状態で伺ったのにも関わらず、完全に自分の事情なんて忘れた。映画でも小説でもショーでもどんなものでも同じだけれど、出だしで世界に入り込むというのは作品を楽しむ上で重要。鼓手は鼓童の前田剛史さん。すばらしい幕開け。

主人公たるお初役ダンサーは鍵田真由美さん、徳兵衛役ダンサーは佐藤浩希さん。お二人とも「世界が尊敬する日本人100」に選ばれたフラメンコダンサーで、その身体能力の高さ、表現力の美しさといったら溜め息が出るほど。特に鍵田さんの手の優美さには……舞台の上の鍵田さんの手は客席の私からだと1センチにも満たないサイズだったはずなのに、目の前に手があったかのような錯覚を覚えるほど釘付けに。手の動きだけで、ものすごい感情表現。あの官能的な手の動きなら3時間ぶっ続けで観ても見飽きない。

パンフレットより

パンフレットより

それからシンガー。徳兵衛役シンガーは三浦祐太朗さん。25歳の設定の徳兵衛に近い三浦さんはぴったりではあるのだけれど、お初役の三原ミユキさんが大人の女性(お初は19歳という設定だけれど)なので、どうなるかパンフレットを拝見したときには心配だった。いや、私が心配するなんて、いらぬお世話なんだけど。でも、始まってみたらびっくり。九平次(敵)役の野本有流さんのブルース調の歌声との対比で、清涼感溢れる三浦さんの歌声がしっくりきた。

和の楽器、フラメンコの楽器のフュージョンも何の違和感もなく見事だった。また舞台演出も。すばらしく美しかった。今回、夫は仕事があったので伺えなかったんだけれど、見せたかった。特に最後のお初と徳兵衛が心中を果たすシーン。はらはらと花吹雪が舞い散って美しかったー。(余談だけれど、心中を果たせた二人にとって、あれはハッピーエンドなんだと思う。)

ラストシーン。パンフレットを携帯で撮影したらフラッシュが……

ラストシーン。パンフレットを携帯で撮影したらフラッシュが……

実は、先日見に行った別のフラメンコの公演で、内容が前衛的すぎて私にはちっともわからず、生まれて始めて居眠りをしてしまうということがあった。何の公演かは書かないけれど、かなりの音量で演奏があったし、演者もみなさんものすごい評価をされている方々。舞台演出も凝っていたと思う。でも寝ちゃった。どうして寝てしまったのか理由がよくわからなかったんだけど、「フラメンコ曽根崎心中」を観て発見。個々がすばらしいことは大切だけど、それだけでは感動は生まれなくて、絶妙なバランスがとれていることが大切なんだ。バランスがとれていて初めて、個々の演者のすばらしい才能が見えてくるんだ。そういう意味で、公演の成功って奇跡的なものだと思うし、フラメンコ曽根崎心中は奇跡的な成功だった。立ち会えて良かった。

■フラメンコのサービス精神がすてき。

フラメンコのショーでは、プログラムが終わった後で出演者がカーテンコールで出てきた後、即興で舞踏やカンテ(歌)やギターをやることが多い。そのときは、観客も手拍子を叩いて参加する。

今回の曾根崎心中では、宇崎竜童さん(フラメンコ曽根崎心中の音楽監督)が歌ってくれた。それがまた本当に渋くてかっこよくて、目がハートになってしまったよ。それから2回目のカーテンコールでは、和楽器の演者がフラメンコの音楽に合わせて踊るという、絶対によそでは観られない不思議なコラボが生まれていた。客席も一体になって手拍子で参加。

感動を与えてくれた演者と、即興の踊りという短い時間ではあるけれど一緒になって楽しんで、とても気持ちがよかった。客席とステージの区切りが消え去って会場が一体になって同じ楽しさを共有する。すばらしいなと感じた。

■良い芸術には、すごい力がある

2時間半くらいの時間、自分の状況なんかすっかり忘れて没頭して、帰ったらちょっと楽になっていた。自分が「大変だ〜」と思っているときに、頭を切り替えるのはとても大変。でも、良い芸術に触れると少しの間、頭を切り替えられる。もちろんその芸術から離れたら、また悩むんだけど、ちょっと切り替えた後のほうが建設的に考えられる。

とても苦しい想いをしているときに芸術を見に行くのはなかなか難しいと思うけれど、行ってみたら良いことが絶対にある。そういえば、以前に三遊亭美るくさんを取材したとき、落語が、仕事で疲れきった私を救ってくれたと言っていた。良い芸術ってすごい力があるんだ。

もし近くで「フラメンコ曽根崎心中」の講演があったらオススメ。私は次も絶対に見に行きます!

▼限定公開だけど、フラメンコ曽根崎心中のYoutube。生で観てほしい!▼

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