紙媒体とweb媒体、どっちがエライ?

紙媒体の編集を6年やって、今はwebのおもしろさにはまって紙の仕事もやりつつweb記事を書いている私ですが、紙媒体をメインにしている人からの、web媒体の人へのマウンティング攻撃がすごいなと感じることがあります。

新聞や週刊誌から下りてきているウェブニュースあたりを除けば、ネット上に晒されている原稿は、紙媒体のそれと比べ、圧倒的に精度の低いものが多い。
「ウェブライターよ。なぜ君たちはこれほど文章がヘタなのか?」より

他にも「webライターの仕事はチャチャッとフリーフォトを使って短期間でやっていて簡単」とか「公開してからも直せるからって、荒い」とかも言われます。
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■確かにweb媒体の校正回数は少ないし、文字制限があることも少ない

確かに、web媒体は文章量に1文字レベルでの制限はない(ことが多い)し、校正の回数も非常に少ないです。たいていはライター確認と編集部での確認のみ。一方、私が前に勤めていた会社の制作物(紙媒体)は、世に出るまでに校正は少なくとも4回(×2人)、原稿吟味は6回(×2人〜4人)かけていました。

だから、初めて純然たるweb媒体で仕事をしたときは、むっちゃくちゃビビりました。「ほわー、もう世に出ちゃった!」って。私は誤字っ子だから、世に出た後に漢字間違いに気づくことも恥ずかしながら多いです。それは本当に反省しているところです。

■校正回数が少なくて、文字数制限がないからといって、webの仕事は簡単で楽なのか?

ただ、だからといってwebの仕事が簡単で楽だということはないと思うんです。

紙媒体は基本、お金を払って買ってもらうので、完璧な精度が求められる代わりに、お金を払った人だけが読むという面があります。つまり、読者にもある程度の共犯意識があるとも言えると思うんです。

かたや、web媒体。前に以下のようなツイートが盛んにRTされていました。

インターネット上で「豆腐は白い」って書くと、「白くない豆腐もあります」「白い豆腐が食べられない人もいるんですよ!」「私の豆腐は白くありませんが」「厳密にいうと薄いベージュです」「豆腐は黒くあるべきです」「豆腐信者乙」「豆腐主義者め」「豆腐とはお前自身だ」などのリプがきます。
ままままさんのtwitterより

これってある程度、当たっていると思う。web媒体はほとんどが無料で、ネットを持っている人だったら誰でも読むことができるから、いろんな人がいろんなことを言えるのですよね。

例えば「エシャロットがないけれど、形が似てるかららっきょで良いや、まあ挿絵程度の写真だしね」とちょっと間に合わせで写真を使ったとしても、紙媒体では変だなと思った人がアクションを起こすことは少ないかもしれない。

でもweb媒体でそれをやった場合、「あれ? これ、エシャロットじゃない?」「このバカライターはエシャロットとらっきょを同じだと思っている!」等とtwitterで匿名アカウントに書かれる可能性があります。さらに、それをネタにしてブログに書かれちゃうこともあるかもしれない。悪くするとtwitterのまとめも作られます。世の中には、エシャロットやらっきょに愛を注いでいる人がいて、媒体のターゲットじゃなくても読む可能性があるからね。まあ、あんまりアクセスがない媒体だったり、twitterのコメントがつきにくい媒体なら書かれないだろうけど。

それから、写真もフリーフォトなどの有り物を使って済ませられるから楽だ、と言われることもあります。でも、本当にとんでもない勘違いだよ……。紙媒体で働いていたときにも、時間がなくて有り物の写真を必死に探して使っていたこともあります。だけど、有り物でぴったりくるものを探すのって、有料の写真でも本当に大変。今、web媒体でカメラマンがつかない場合、毎回写真にはけっこう時間をかけています。(このブログの写真は適当ですが……。)お金をかけてカメラマンさんに写真をとってもらえる媒体っていいなあ、と思います。。とはいえ、実際にカメラマンさんに写真を依頼するとなると日程調整や備品の用意がやっぱり大変なのですが。

web媒体が1記事にお金も時間もかけられないというのには、もちろん理由があります。1つの記事に2倍かけて精度を高めるよりも、2記事を作った方が媒体の価値が高まるから、お金も時間もかけられないのです。

つまり、web媒体にはweb媒体なりの大変さがあるんですよね。

■紙とwebは長所も短所が違うだけで、どちらがエライとか大変だということはない

ラジオとテレビの長所と短所が違うように、雑誌とwebの長所と短所も違うし、どっちがエライとか、どっちのほうが大変とかいうことはないと思うんです。どちらも共通して法律を守ることは必要だし、記事を通して『こういう世の中が良いな』っていう作り手の気持ちがなかったらつまらないと私は思うし、良い企画を作って喜ばれるようにして、読みやすい記事を書き、ターゲットを見ることも必要。でも書き方と注意点はけっこう違うなという印象です。

紙媒体も、この時代に生き残り方があると思うんです。マウンティングなんてしてないで、紙媒体とweb媒体のおもしろい融合の仕方を考えていったほうがいいんではないでしょうか。

■しかし、そもそも……

ところで、今、私の父は辞書を作っています。その父が、昨日一緒に犬の散歩に行ったら怒っておった。

「今度の編集者はなっとらん! もともと○社(父が依頼を受けている出版社)は雑誌がメイン。雑誌という数ヶ月でちゃちゃっと作れて、翌月になったら別のものを出すような会社は、辞書の仕事なんぞわかってないんだ! 辞書というのはな、オマエ、生涯をかけてやるぐらいの仕事なんだよ! 絶対的に正しくなくてはいけないんだ。諸橋轍次を見ろ!」

ひょええ〜。お父さん、私、その雑誌を作るような人たちから「ちゃちゃっと作れて、すぐ次のものを出す」と揶揄されるweb媒体で仕事してるんですけど……

つまり、そういうことなんだな。人は自分の仕事が一番大変だと思いたいんだ。理由なんて本当は何でもよくて、とにかく今の仕事が思うように回っていっていなかったり、将来の不安があったりすると、人はなんだかんだ都合をつけて利害関係のある人の文句を言いたくなるものなのだな。そういうの、公に向かってアピールしちゃうのって、どうなの? (お父さん、ごめんなさい。お父さんの言葉は私が勝手に公にしました。)

でもね、その後の父の言葉がふるっていたのです。

「とはいえ、辞書の仕事はとても楽しいんだ。1つの事柄について、うまい説明を数年(!)考えたあげく、ピタッとはまる言葉が見つかると、もうすごくうれしいんだよ。だから、仕事をさせてくれている○社には本当に感謝しているんだ。」

辞書の仕事は、時給にしたらweb媒体よりももらえないほど、報酬は安い。でも、父のように考えて仕事をすると、幸せなんだろうなあ。どっちがエライか、どっちが大変かなんてどうでもよい! 文章の修行はどこの媒体でもやる気になればできるはず! 楽しいと思えることを一生懸命にやらなくちゃ。

そういう気持ちになりました。うん、頑張ろう。

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